『新しい貴重な真珠』はイタリアの錬金術師フェラーラのペトルス・ボヌスが1330年頃にまとめあげた編纂物である。1546年にヴェネチアでヤヌス・ラキニウスが抄訳の形で初めて出版した。序文で「カラブリア地方のフランシスコ会修道士」と記されるラキニウスは作業にまつわる一連の図版を「図版解説」の表題のもとで表している。
われらが技術の精髄のうちの幾らか、たとえば渾沌・可変性・作用・実践・生成・そして消滅などは、心的あるいは知的にこそ修得されうるものである。他は、思慮によって認識され得るものである。これはワインのようなもので、第一義の問題として、物質や形相、元素、完全なるもの、酵素の精製、染色、発酵、分離である。そして、叡智も熟考も必要とする要素もある。それらは互いに、空でありかつ天である。
(A)智慧ある熟練者は渾沌より出発する。粗雑で混乱した未分化の元素の量塊のなかで、彼は(M)または(Q)に向かってゆく自分を発見する。B、C、Dあるいは第一元素によって、彼が「自然」そのものに追従する境地に到達するまで。
(B)「実体」とは、「職人」の付帯的な関与によって生起する(D)に起因するものである。我々もまたその事実を、不全なる金属を(M)や(Q)に変成する目的に運用する。
(C)「形相」とは、熟達者による叡智の物理現象であり、これらの原則を動的にするものである。それはまた(M)あるいは(Q)を生成し、T、S、V、ZをXあるいはYに変成しうる。
(D)「天空」は女性的原則であるがゆえに男性原理をうけいれ、満ちて増殖する。これは(M)あるいは(Q)に完全に変成するまでつづく。
(E)「元素」はBから変成され、C他方F、G、H、Iの混成に則って、Dに至る。
(F)「転換」はまずはじめにCからDへ、続いてDからCへと生起する。最終的には、どちらもが(M)あるいは(Q)へと変化する。Fもまた、Dが法であるという潜在性を示す。そして真珠は、人工的に作られ、生成する。
(G)「結合」は、男性と女性的原則(例えばDに伴うC)の婚姻である。
(H)「溶解」はCあるいはDにとってかわる、両性具有の概念である。
(I)「生成」は一方でMを産み出すCとDに因るもので、他方Qを産み出すMとDに因る。密閉容器中に物質を置くならば、術の補助によるよりむしろ、「自然」によって、それはもたらされる。
(K)「染色体」は、なによりまず黒く、それが第一義であるという事実から、死そのものより具現化が困難である。それはCとDが一体となったこと、概念が具現化したこと、すなわち究極的にはMあるいはQが発生することを表している。我々がCからMへ、そこからQへと段階的に達成するに従って、白化が起こる。サフラン色(黄化)は、物質の結合が進行中であることを示唆する。Dの全体を通して種子が蒔かれるからである。第四の色は赤である。それはMあるいはQの、事実上の達成を意味する。
(L)「消化」は、外部からの緩やかな過熱による、その懐妊の、段階的進行である。これは、CとDからのMへの発展であり、かつMとDからのQへのそれである。
(O)「分離」は、元素の切断である。それはBやDから生じており、かつ同様に抽出される。
(P)「作業」は、Bと「MあるいはQに適する原理の休止」による、変成過程の総てでもあり、かつ卑金属を銀あるいは金に変成させるMやQの効能でもある。
(M)「完全な存在」とは、動力因であり、かつ、CとDの何れもがE, F, G, H, I, K, L, O, Pの方式にのっとって変化せらるる形式である。またそれは、不完全な金属を完成する力を持つ。
(N)「発酵」はMをQへと発展させる驚くべき原理である。それは緩やかな炎による平穏な暖気によってもたらされる。しかるに、Mは、最も有効なQの資質の一部、すなわち完全なる染色体「チンキ」を依然として欠いている。Qは、質的のみならず量的にも、無限の増殖が可能である。汝もしMをQに変成しうるならば、Qを自由に増殖・完了しうる。
(Q)また、形成力ある染色体「チンキ」についてだが、これは円熟した完全のもので、総ての元素の均衡から成る。故に、その美徳は、Mのそれよりはるかにより偉大でより有力である。それは不完全な金属を銀または金(XまたはY)に変える。そしてそれは、人間の精神的・肉体的なあらゆる疾患にとって有効な療法ともなりうる。(それは)病める因子を駆逐する術を知っている。それはまた人間を、善良で慈悲深きものに成す。遂にはそれは、老衰への驚異的な治癒でもありうる。
我らが「水」の12課へと、黄金(X)の一片を混合せよ。それらを粉末化し、程良い深さの瓶のなかに安置せよ。一般的な方法によって、蒸留器をそのうえに接ぐ。粘度でもって、瓶と蒸留器の孔を、注ぎ口まで塞げ。すっかり乾燥するに任せよ。それを炉に据えよ。しかし、石炭に直接さらさず、鉄のうえに、瓶の全体が蒸留器までを含めて、それに覆われるようにせよ。そして瓶と火炉の隙間をもまた、粘度で封印させよ。然る後に点火せよ。さすれば蒸留器のなかに、水分とともに油分が生じ来たり、水面にオレンジ色で浮上するであろう。すべての水分が蒸留されるまで、火を灯し続けよ。冷却せよ。容器を取り外せ。油分を水から取り出し、そして、瓶を開けよ。硬質の、脆くそして粉末化しうる塊を見い出す。望むならば、同一の或いは他の水を塊へと注ぐことで全過程を繰り返し、同様に蒸留すべし。生じ出る水は、はじめそう多くは無い。過程を三度繰り返せば、もはや少しの水分すらそこには無い。残された塊は、黒みがかった粉末である。これを以下の方法で焼き、石灰化する。
塊が1オンスほどであれば、3倍量の水銀のうえに注ぎ込み、それらを一緒にすりつぶす。かくして、乳酪(バター)のごとき混成物を生産する。そして、ガラス容器中に据えたら、粘土で密閉せよ。3、4つの石炭による緩やかな炎を焼べた鉄製三脚台に据え、小さな木製の棹で絶間なくかき回す。煙が完全な破壊性を持つが故、口腔と鼻孔を閉じておくよう注意せよ。水銀のすべてが消えるまで撹拌を続けよ。するとそこには、より漆黒の霊妙なる塊が残る。塊が微粉化され強く黒化するまで、三度これを繰り返すべし。そしてそれを取り出し、より小さな容器に置く。それが湿り気を帯びるように、前述の油を注ぎ込め。容器を閉じ、灯火・光明・天体のもとに監視させよ。三日の内に物体は乾燥し、淡い色彩の外観を呈しはじめる。先ほどと同様に、さらに油を注ぎ込め。同様の炎によって乾燥させよ。すると物質は白化の様相を呈する。四度まで過程を繰り返すべし。物質はそれから、眩い青白さに変わるだろう。それはあたかも、清水のなかの東洋の真珠のごとくに、繊細である。そして続行せよ。我らが黄金と塩と樹脂はひとつに成らねばならぬ。おだやかな炎はなんら害するところないが、馬糞による暖気がより良い。
物質の黒化は、それが現れるとき、墨の黒ではなく、黒檀色の輝きをもっている。そこから白化が始まるときには、黄金(サフラン)の色調の傾向に注意せねばならぬ。それは、後に続く輝かしき紅玉色の期間ほどには長くない。M(白色)とQ(紅玉色)の外観の間には、30日の間隔がある筈である。この期間、火力は少しずつ増すべきであり、容器は慎重に密閉されねばならぬ。物質はかくして完全となり、汝は、自身と仲間の用途のため、それを慎重に守らねばならぬ。ひとつぶで、如何なる卑金属においても、2000の特性を、それ自身の輝ける自然の天分へと、変容させるだろう。
1ドラムのMをQに変えるため、そこへ3オンスのDと1オンスのCを加えよ。30日間、Kを通り抜けるまで、全体をゆるやかな煮沸にかけよ。その後汝は完全化を見い出すだろう。Qは、まるく、赤い。汝このすべてを行い完遂したならば、偉大な熟達として自己をみなしうる。汝は、偉大なる慈悲深き神に、その言辞を絶する恩恵に、篤く不断の感謝を捧ぐべし。かようにして、我、汝に賜物を与ふ。善き読者よ。この莫大な価値は、来るべき世代によって理解されるであろう。
S(鉛)X(金)T(錫)Y(銀)V(鉄)Z(銅)
これは、ともに小さな森を構成する木樹の組成を描いている。今から、手腕の能う限りにおいて、これらの天性をひとつずつ描き示そう。まず第一に、これら木樹の左からはじめよう。巻物は無邪気に樹皮をめぐって、以下に続くように浄化されてゆく。
「第1の樹」は、熱・乾・赤、灼熱した青銅のように。
それはまた鉛のように湿り、乾いて、黒化する。
冷・湿なら水銀のように。
熱・湿ならサフラン色に。
「第2の樹」は、熱・乾、白熱した真鍮のように。
それはまた遷ろう水銀のように湿り、黒くなる。
乾・白、鉛のように。
熱・湿・サフラン色、血染めの黄金のように。
「第3の樹」は、熱・乾・赤。
それは鉛のように乾いて、黒くなる。
湿・白、錫あるいは水銀のように。
熱・湿・サフラン色、血染めの黄金のように。
右手から。「第1の樹」には巻き物がからみつき、それは前から入って反対から出てきている。
熱・湿・サフラン色、灼熱した黄金のように。
それは卑属の水銀(earthy silver)のように、乾いて、黒くなる。
湿、銀のように。
熱・乾・赤、灼熱した青銅のように。
「第2の樹」は巻き物につらぬかれている。乾・赤、灼熱した青銅のように。
それは鉛のように、乾いて、黒くなる。
湿・白、水銀のように。
熱・湿、サフラン色、血染めの黄金のように。
「第3の樹」は巻き物につらぬかれている。熱・乾・赤、灼熱した青銅のように。
それは鉛のように、乾いて、黒くなる。
湿・白、錫のように。
熱・湿、サフラン色、血のように赤い。
我らが技芸には、三箇の慣例が遵守されねばならない。まず、適正な物質を準備せよ。そして間断なく作業を継続せよ。中断によって台無しになることがないように。最後に、忍耐強くあれ。そして常に、自然の先例にならいなさい。汝の物質として、精妙に精錬された生命の水を得よ。保て。しかしこう考えてはならぬ、万物を潤す流動体が、酒精の明るく澄み切った流体であると。汝、切望して辺境に驚異の現象(なんぞ)を探すあいだ、汝は、祝福の奔流のきらめくうねりを通過(看過)してしまう。
15の室ある宮殿に入る。そこには「王」、その額は王冠で囲まれ。気高き王座に座り。掌には彼の前の全世界への王権(笏)をもち。「彼の子と五人の従者」が、それぞれに異なった色のローブを着て跪き。彼の力を「息子と従者」に賦与して欲しいと嘆願している。しかし彼は彼らの要請に返事をしさえしない。
息子は従僕に扇動され、玉座についたままの父を刺し殺す。(かくして、精妙に精錬された水との混合物を得る。)
第3の象徴において我々は、息子が父の血液をその衣装のなかに集めるのをみる。(これは我々の技芸の第2過程であり、その手順は既に述べられた。)
第4の室では、墓が掘られる。(これは炉である。)奥行きはニ手幅(ニ掌幅)、幅四インチ(四指尺)。
第5の室では、息子は彼の父を墓に投げ入れて、彼をそこに遺棄せんと企んだ。しかし、我らが術によって、両方とも一緒に落ち込んだ。
第6の室では、いまだ息子は逃げ出そうと足掻くのだが、我らが術の第2過程から立ち上った者が現れ、この逃亡を阻む。
父と息子が、第7の室と呼ばれる墓所に幽閉せらるる間、そこには彼等の灰すなわち灼熱の風呂のなかの腐敗が進行する。
第8の室では、腐敗の間に生起せるものに調査がなされる。瓶が冷却されたか、など。
第9の室では、死骸骨が墓所から取り出されている。これは全身が間断なき溶解によって分解されてこそ可能になり、為されたらば慎重に保存されねばならない。
第10の室では、遺骨は9の部位に分割され、溶解された物質は9日間ゆるやかな煮沸にかけられる。その一部が黒化するまで。後者のものを取り出し、過熱された環境下で、別の容器に保存せよ。水を、さらに9日間のゆるやかな加熱にかけよ。さらに、黒化したそれを取り出し、残留物とともに安置せよ。水が澄んで浄化するまで作業を続けよ。小さいガラス製の容器のなかで黒い物質上に、以上の「生命の水」を注がれるようにせよ、なぜならばそれは1インチ高で浮くであろうからで、9日間おだやかな炎に耐えさせよ、必要とあらば「水」を毎日入れ替えつつ。(斯くして、「大地」は白くそして澄みはじめるであろう、哲学者の教えのとおりに。「地は腐敗し、水によって浄化さる」と。
天使が派遣され、浄化され白化された地に骨は蒔かれる(地は今や種子が混合され、すべては蒸留器の接合された密閉せる瓶のうちに配置される。より分厚い物質が、より激しい炎によって「水」と、底の堅い物質としての残留物に、分離するようにせよ。
第11の室では、従者たちが王の復活を神に祈っている。以下のすべての作業は、彼の復活に関係する。この目的のために、二番目の天使が、第12室に派遣される。天使は大地に、件の骨の別の部分を配置する(すべてが濃厚濃密になるまで)そうして、奇跡がおこる。かくして、天使たちの継承者もが派遣され、第1第2第3そして第4の骨の部分を、地に蒔く。そこは、それらが白く透明にそして堅牢になるところである。第5第6の部分は黄色く変えられて、第7第8そして第9もまた同様にされる。「骨の鏤められた大地」は、血あるいはルビーとおなじくらいに赤くなる。
そのとき、神の御恵に充ちて王は墓から蘇る。彼のからだは、今や完全に霊的かつ天界的であり、彼は従徒のすべてを王者に変える力を持っている。
ついに彼は、従者と息子にその力を行使し、黄金の冠をかれらの頭上におく。そして彼の美徳によって、皆を王となさしめる。神が偉大なる力と尊厳を賦与したがゆえに。
貪欲かつ邪悪なる者、いかなる詐称者にも、この偉大なる作業に、その汚い手で触れさせてはならぬ。誠実な者そして賢き心をもつ者、事物の原因の最も奥深きを探究しうる者(のみ)をここに連れて来るのだ。